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株式会社ビューティーエクスペリエンス 代表取締役社長 福井 敏浩 × SAMURAI代表 クリエイティブディレクター 佐藤可士和

スタジオの世界観が統一。
1つの山を登りきったらまた次の山が見えてきます。

株式会社ビューティーエクスペリエンス 代表取締役社長 福井 敏浩 × SAMURAI代表 クリエイティブディレクター 佐藤可士和

東京、名古屋、福岡スタジオに続き、最後に大阪スタジオのリニューアルが完了。
新ミッションの策定から社名やロゴの刷新、スタジオのスペースデザインまですべてを手がけた佐藤可士和さんと当社代表・福井が、大阪スタジオの魅力と全スタジオの総括、出会ってから今日に至るまでを振り返り、今後の展望についても深くて熱いトークを交わしました。

――今回のスタジオのデザインコンセプトを教えてください。

佐藤
「美」という漢字を元にデザインしたビューティーエクスペリエンスのロゴを軸に考え、空間に配置しました。
細長いスペースを最大限に生かしつつ、あると便利な収納やシンクをそのままアートにできたらいいなと思ったんです。
ここはショップではありませんが、最近は何でもネットで買えるのでお店に行く理由がなくなりつつあります。
そこで“ここに行く理由がある空間”をつくることが大事だと考えました。
福井
なるほど。ビューティーエクスペリエンスの世界観が、東京、名古屋、福岡、大阪、すべて異なるデザインで表現されているのですが、決してバラバラではない、というのがすごいですね。毎回驚きです。
佐藤
同じ物をつくるのではなく、毎回違うエクスペリエンスをつくることが重要なんです。
福井
シャンプー台の前には撮影用のホリゾント*もあるんですね。
佐藤
美容師様が撮影をされる場所であることをふまえ、奥のシャンプースペースとの仕切りを普通の壁にするより、ホリゾントのほうが使いやすいのではないかと。
また、入口から見た時に、普通の壁で仕切ると空間がそこで終わりに見えてしまうので、空間の広がりを見せるのにもいいと思いました。

*ホリゾント…舞台やスタジオで使われる背景用の幕または壁

――活用法は色々ありそうですね。

福井
美容業界以外のことにも使えそうだなと考えています。
様々な企業とコラボして、ここを発信の場にするのも面白いかなと思います。
佐藤
それはすごく重要なことですね。
せっかくこういうスペースを作ったのでどんどん活用して、美容業界だけでなく色々な方たちが訪れる場にすることが大事だと思います。
福井
そうですね。大きな収納棚はオープンキッチンのようにも見えます(笑)。
佐藤
ここには冷蔵庫も備え付けられていますし、かなりの収納力があります。
セミナーにも使えますし、新製品をディスプレイしたり、色々なことに活用していただくために、オブジェでありつつ使い勝手のいい物にしています。
福井
一般の方向けにも何かできたらいいなと思っています。
福岡スタジオはヨガを行ったりしているようです。
佐藤
そうなんですね。週末限定で社員食堂を一般開放している会社もありますね。
福井
面白い取り組みですね。大阪はアジアの玄関口でもあるので、そういう視点でも何か考えたいです。

――4カ所のリニューアルが終了しました。今、どのような思いをお持ちですか。

福井
私は当初から、他社のスタジオと同じような物はつくりたくないなと考えていました。
可士和さんのおかげでそれが実現できました。
これでひと通りのリニューアルが完了し、4拠点すべてにおいて世界観を統一できたと思います。
佐藤
最初は東京からでしたね。社名やロゴなど、全部一貫してやらせていただいたので、うまくできたのだと思います。
これがもし、スタジオだけ手がけるということだったら、こういう風にはできなかったかもしれません。
プロジェクトの最初から関わらせていただいているので、ロゴをベースに、それをどこまで崩してデザインしてもいいか?などの加減が僕にはわかっていますから。
福井
確かに。スタジオのデザインだけ別の方に頼んだら、大事な部分が崩れてしまったかもしれません。
佐藤
グラデーションの色の選び方ひとつにしても、考えに考えてデザインしています。
一色ではないけれどイメージに合うもの、全スタジオのトータルイメージで考えました。
福井
なるほど。おかげさまで、スタジオに来ていただいたたくさんの美容師様が喜んでくださっています。
スタジオで撮影をした画像をインスタに上げている美容師様も多いのですが、うちのどこのスタジオかすぐにわかります。
佐藤
まさにそういうことも狙いのひとつです。このスタジオも見てすぐわかると思います。
SNSには莫大な情報量があるので、そこにちょっと写っているだけでも、たくさん拡散した時に大きな効果を生むんです。

――お二人は出会ってからどれくらいになりますか?

福井
社名変更した2015年よりも前ですから、初めてお会いしたのは5~6年前でしょうか。
佐藤
そうですね。モルトベーネからビューティーエクスペリエンスに変わったのは、イメージ通りでしたか?このようなスタジオができることは想像されていましたか?
福井
いえ、全然。ここまで変わるとは思っていなかったです。当初は社名を変えようとも、オフィスを移転しようとも思っていませんでしたから。
まず私自身がやりたいことをミッションにし、それが空間(オフィスやスタジオ)になりました。
可士和さんから学んだところが多く、製品ブランドなども取捨選択してスリム化しました。
1つの山を登り切った感じです。するとまた次の山が見えてくるので、今後も色々なことが変わっていく可能性があるかもしれません。
佐藤
オフィスを移転した時がターニングポイントだったのかなと思いますが、いかがですか?
福井
そうですね。会社全体の一体感が出ました。
佐藤
空間のインパクトは大きいですよね。働く場所が変わると、社員の方の気持ちも変わるのだと思います。
福井
それらすべてを同じタイミングでできたのは良かったです。

――社員の働き方も変わってきたと感じられることはありますか?

福井
以前はフロアが分かれていたので内線でやりとりすることが多く、「そんなに長話しするくらいなら席まで行けばいいのに…」と思うこともしばしばありました。
でも今はワンフロアになり、電話やメールではなく席に行って直接話をする機会も増え、仕事そのもののスピードアップにつながったと感じています。
佐藤
仕事の仕方が変わったんでしょうね。
福井
ワンフロアにしただけで、全体のスピードが3割くらい早くなったのではないでしょうか。でももっと早められると思っています。
可士和さんにはどう見えていますか?
佐藤
そうですね、色々なスタジオができ上がってくるたびに、いい意味でみなさんあまり驚かなくなってきたように思います。
福井
笑!

――これまでを振り返って、また今後の抱負をお聞かせください。

佐藤
いちばん最初の頃、福井社長が“おやじのスーツを着ているようでしっくりきていない”とおっしゃっていたのがとても印象的でした。
福井社長のビジョンをお聞きするうち、それをそのまま社名にすればいいんじゃないですか、と提案したのを覚えています。
福井社長は若い経営者ならではの柔軟な考えとスピード感をお持ちですから、その後もどんどん決断されて、理念や行動指針もつくり、走り続けてこられました。
5~6年の間に毎年、何かやっていましたからね。スペースブランディングの最先端を実現できたと思います。色々できて僕もうれしいですし、さらに違う展開もできそうかなと思っています。
福井
途中で迷うことはあまりなかったのですが、周りの人からは「社名をよく変えたね」と言われることが多かったですね。
特に私と同じ2代目、3代目の経営者の方から言われました。社名変更を検討している時も、当社はそもそも社名よりも製品ブランドのほうが認知度が高かったので、社名変更のリスクは少ないと判断したんです。私は社長になって18年なのですが、10年ほどが経過したタイミングで、何かを変えたいという気持ちはありました。その間にヒット商品も生み出し、経験と実績がある程度できてからの社名変更だったので、自信を持ってできたのだと思います。社長になってすぐに社名を変えたら反発があったかもしれませんね。
会社も私もまだまだ成長していかなければなりません。ここで満足せず、海外展開を充実させたり、原宿や青山、銀座にもスタジオを出せるようにしていかないといけないなと考えています。
今後ともよろしくお願いします。

本日はありがとうございました。

佐藤可士和 氏
アートディレクター / クリエイティブディレクター

1965年 東京生まれ。
博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブンジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。
毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。慶應義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書はべストセラー「佐藤可士和の超整理術」(日本経済新聞出版社)ほか。http://kashiwasato.com/

佐藤可士和 氏